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本気で農業始めました

第5回 竹アートを通じ地域を考える

「自分事」として参加し課題解決へ
フリーライター 久米千曲

 東京ドーム3.6個分に相当する17haの竹林があるという新潟県田上町。春は大勢の買い物客が「田上のタケノコ」を求めてにぎわう一方で、管理が行き届いていなかったり、伐採後の廃棄や活用が進んでいなかったりする竹林もあります。
 地域資源の魅力と課題を考える機会につなげようと竹を使ったアートプロジェクト「たがみバンブーブー2023」が10月15日まで開催され、タケノコの生産者でもある山川仙六農園の山川敏幸さん(34)は今回、実行委員の一人として携わっています。

開幕した「たがみバンブーブー2023」の会場(山川さん提供)

「自分事」のイベント意識 相互交流で貴重な機会を創出

 田上町商工会青年部を核にした実行委員会が中心になり企画し町内の7会場に竹あかりなどを展示しています。初めて開催した昨年は来場者が2万4,000人を超え、町の人口(約1万人)を上回りました。持続的な開催を見据え、今年は会場の一部を有料化したり無料のシャトルバスを運行したりするなど、運営を見直し、9月16日に開幕しました。
「自分事」として捉えてもらおうと準備も工夫しました。計13回の一般向けワークショップを用意。アートの制作や設置だけでなく、竹林の整備も盛り込みました。終盤に入った9月上旬も町の中心部から車で5分ほどの場所にある竹林で、山川さんも実行委員として参加し、竹を切り出す作業に汗を流しました。
 この日は地元で里山活性を目指し活動するグループや、隣接する加茂市の商工会議所の青年部有志も加わりました。チェーンソーで竹を切り倒したり、作品づくりに合った素材かどうか見極めたりするためには声かけや相互協力が欠かせません。山川さんは「タケノコが育つ環境や抱える課題を知ってもらうだけでなく異業種や世代間の交流ができるのは貴重な機会です」と語ります。

荒れていた竹林に入り整備する参加者

グループのメンバーが切った竹を運び出す山川さん

タケノコ通じて知る地元 強みに変えて地域資源持続へ

「『俺たちの町にはタケノコがある』という声を聞き、これは地域の強みに変わると確信しました」
 プロジェクトの仕掛け人で、「道の駅たがみ」の駅長を務める馬場大輔さん(44)はこう説明します。売り場に並ぶ特産のタケノコを通じて高齢化や後継者不足により荒れてしまった竹林があることを知りました。放置竹林が増えれば将来的にタケノコを掘り出せなくなるかもしれない。しかし農家ら地元住民には揺るぎないタケノコへの自信がある。
 馬場さんは「地域資源を持続させるために仕組みを考えなければならない」と動き出したのです。

デザイン用紙に合わせて穴を開け、竹あかりを作る参加者

サポーターから実行委員へ 絶好の機会からつながる再会も

「命をけて竹林を整備・管理しているからこそ、タケノコがあることを知ってもらえる絶好の機会」と山川さんは馬場さんに賛同し、昨年、サポーターとして参加。実行委員として関わる今年はうれしい再会がありました。勤務する高校の卒業生が進学先の大学の仲間と共にワークショップに複数回にわたり通ってくれたのです。
「地域を理解して未利用資源を生かそうという意識と、ボランティアも加わり作り上げていく団結力に驚きました」と卒業生は語ります。
 作業終了後、山川さんは再会した卒業生ら学生と「竹」談議に花を咲かせました。

ワークショップに参加した卒業生ら学生と懇談する山川さん(右)

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