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海外だより

グローバルな視点で日本農業やJAを見つめるために、全中ワシントン駐在員による現地からのタイムリーな情報を発信します。

アメリカ産トウモロコシをめぐる3つの情勢変化

[October/vol.148]
菅野英志(JA全中 農政部 農政課〈在ワシントン〉)

 日本は毎年多くのトウモロコシをアメリカから輸入しているが、本号では、アメリカ産トウモロコシに関連する最近の3つの情勢変化について紹介したい。

ブラジルの躍進

 2022/23年度、長らく世界最大の輸出国であったアメリカを追い抜き、ブラジルがトウモロコシ輸出量世界1位の座についた。アメリカ農務省が公表する世界農業需給予測(WASDE)によれば、2023/24年度のブラジル産トウモロコシの輸出量は5,500万tと見込まれており、アメリカ(5,200万t)を抑え、ブラジルが2年連続で輸出トップの座を維持する予測となっている。
 かつて一度、2012/13年度にトウモロコシ輸出量でブラジルがアメリカを上回ったことがあったが、それはアメリカ産の不作が原因であり、今回とは状況が異なる。すなわち、ブラジル産の生産量の増加と輸出量の拡大¹が今回の順位変動の背景にあり、今後、ブラジルがトウモロコシの輸出量世界1位という状況が定着する可能性もある。なお、生産量という観点ではアメリカがトップである(2023/24年度の生産量予測:3億8,900万t)が、ブラジルのトウモロコシの単収はアメリカの半分以下であり、ブラジルには生産余力がまだ残されているとも言える。

1 2023/24年度のブラジルのトウモロコシ生産量および輸出量を2012/13年度と比較すると、生産量は約1.6倍(1億2,900万t)に増加し、輸出量は約2.1倍に拡大。

中国の動き

 中国は世界最大のトウモロコシ輸入国であり、同じくアメリカ農務省の予測によれば、2023/24年度の輸入量は2,300万tに達する見込みである。10年前の輸入量330万tと比較すれば、約7倍という驚異的な増加である。
 この間、中国のトウモロコシの輸入需要の拡大を支えてきたのは主にアメリカとウクライナであるが、ここに来て変化がみられる。一つがブラジルとの関係であり、中国とブラジルは昨年、トウモロコシの輸入に関する検疫要件に合意した。
 新華社通信によれば、本年1月にブラジル産トウモロコシ6.8万tを積んだ船が中国広東省の港に到着し、これがバラ積み船で初めてのブラジル産トウモロコシの輸入となったとのことである。
 さらに、中国は輸入先の多様化を進めるため、南アフリカ共和国からの輸入も開始した。新華社通信によれば、本年5月に同国から5.3万tのトウモロコシを初めて輸入したとのことである。
 こうした中国の動きは、ロシアによるウクライナ侵攻をふまえた輸入先の切り替えが背景にあるとされているが、さまざまな分野で脱中国依存を進めるアメリカへの対抗も念頭にあると考えられ、この動きが今後拡大していった場合、アメリカ産トウモロコシの需給や価格に大きな影響を与える可能性がある。

メキシコとの貿易紛争

 メキシコはアメリカ産トウモロコシの主要な輸出先国で、メキシコは毎年1,600万t前後をアメリカから輸入している。
 トウモロコシをめぐるアメリカとメキシコの現在の貿易紛争は、2020年末にメキシコ政府が公布した政令に端を発する。その政令は、トウモロコシの在来品種や文化の保護、健康・環境への影響等を背景として、2024年1月末までに、メキシコ国内での遺伝子組み換えトウモロコシおよびグリホサート²の利用を段階的に禁止する内容となっていた。遺伝子組み換え品種がトウモロコシ生産量の大宗を占めるアメリカは、この決定に当然反発した。
 その後両国間で協議が行われてきた中、本年2月、メキシコ政府は新たな政令を公布し、飼料用や食品工業原料用における遺伝子組み換えトウモロコシの利用禁止期限は当面撤廃されることとなった³。他方、人の食料用としての利用の禁止には変更はなく、メキシコの主食であるトルティーヤ等に使用されるホワイトコーンのメキシコへの輸出は今後制限されることになり、既に本年6月下旬からはホワイトコーンの輸入に対して50%の関税が課せられている。
 もっとも、アメリカ産トウモロコシのメキシコへの輸出の大宗は飼料用のイエローコーンであるため、当面の影響は限定的と考えられるが、アメリカが設置を要請したアメリカ・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に基づく紛争解決パネルの議論も含め、今後の動向が注目される。

2 ラウンドアップなどの除草剤に使用される成分。

3 代替作物の普及促進を今後進め、代替作物の十分な供給量が確保されるまでは、飼料用・食品工業原料用としての遺伝子組み換えトウモロコシの利用を容認する内容。なお、同政令においてグリホサートの利用禁止期限は2024年3月末まで延長。


中国広東省の港に到着したブラジル産トウモロコシの貨物船(新華社通信)
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