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海外だより

グローバルな視点で日本農業やJAを見つめるために、全中ワシントン駐在員による現地からのタイムリーな情報を発信します。

アメリカ大統領選挙 MAGAの熱狂に触れて

[June/vol.156]
菅野英志(JA全中 農政部 農政課〈在ワシントン〉)

 アメリカのバイデン大統領は4月17日、「鉄鋼の町」として知られるペンシルベニア州ピッツバーグの全米鉄鋼労働組合本部を訪れて演説し、中国産鉄鋼・アルミニウム製品を対象とした1974年通商法301条に基づく追加関税¹を現行の3倍に引き上げることを検討するよう、米国通商代表部(USTR)に指示したこと等を明らかにした。これはトランプ前大統領の米国第一主義を彷彿ほうふつとさせるような施策であり、11月の大統領選挙が近づく中で、労働者層からの支持を巡る争いが激しくなっていることを表している。

 一方、トランプ前大統領側では、不倫の口止め料を不正に処理した罪(ニューヨーク州法違反)に問われている裁判の初公判が4月15日に開かれた。大統領経験者が刑事事件の被告人となったのは史上初であり、裁判の行方に大きな注目が集まっている。トランプ氏は他にも3つの刑事裁判²を抱えており、裁判にかかる時間や特に費用の面で選挙戦に一定の影響が生じるのは必至である。とはいえ、これらの事件で仮に有罪判決を受け、収監されたとしても、大統領選挙への出馬や当選を妨げる憲法上の規定はないと一般的に考えられている。気になるのは有権者の投票行動に与える影響で、ブルームバーグ・ニュースとモーニング・コンサルトが1月末に発表した世論調査では、仮にトランプ氏が有罪判決を受けた場合、激戦州³の有権者の53%が同氏への投票を拒否すると回答している。

MAGAの熱狂に触れて

 MAGAマガとは、Make America Great Again⁴(アメリカを再び偉大な国に)の頭文字を取った造語で、トランプ前大統領の選挙スローガンであり、現在ではトランプ氏の熱心な支持者をMAGA、MAGA派、MAGA共和党員などと呼んだりする。トランプ氏はMAGAムーブメントに参加するよう有権者に呼びかけ、バイデン大統領はMAGAを過激主義者、民主主義の脅威だと批判し、共和党穏健派に秋波を送る。

 MAGAを実際に体験するため、筆者は、激戦州の一つであるペンシルベニア州で4月13日に開催されたトランプ氏の選挙集会に足を運んだ。会場は同州最大都市のフィラデルフィアから車で1時間ほどの郊外にある屋外スペースで、チケットは無料で誰でも入手できる。開場は15時で17時30分頃から催しが始まり、トランプ氏の出番は19時頃の予定となっていた。

 筆者が会場に到着したのは16時頃。余裕をもって到着したはずだが、会場入り口の荷物検査には既に3km程度の長い列ができていた。後刻、トランプ氏は演説の中で4万2,000人が集会に参加したと述べており、さすがにそれは誇張されているが、1万人前後は集まっていたように思われる。何もない郊外にそれだけの人数を集めるトランプ氏の人気ぶりは驚きである(恐らく動員もない)。また、参加者を見ると、やはり白人の割合が多く、小さな子どもを連れて家族で参加している人が多いのも印象的であった。

 会場到着後すぐに荷物検査の列に並び始め、寒さと強風に耐えながらトランプ氏登場予定時刻の19時を迎えたものの、会場入り口まではまだ1kmほどの列が残っており入場を断念。しかし、トランプ氏の姿を一目でも見たい支持者は、その後も寒空に並び続けた。結局トランプ氏の到着が遅れたため、同氏の演説は20時頃から始まったが、約1時間にわたる演説で会場を大いに盛り上げた。トランプ氏の姿を近くで見たい場合は当日朝から並ぶことをお勧めしたい。帰路に就く頃には、ひどい渋滞ができていた。

会場に並ぶ支持者の列①(筆者撮影、会場入り口ははるか前方)
会場に並ぶ支持者の列②(筆者撮影、会場周辺のあちこちでトランプグッズが販売)
会場外でトランプ氏が乗る車の到着を待つ支持者(筆者撮影)

1 1974年通商法301条は、USTRの調査の結果、外国の政策的行為や貿易慣行等が通商協定に違反し、あるいは不公正な措置であると認定された場合、当該国に対して追加関税や輸入制限等の報復措置を講じる権限をUSTRに与えている。バイデン政権は、2018年にトランプ政権が中国に課した同条に基づく追加関税を維持している。

2 2020年の大統領選挙結果を覆そうとした裁判(連邦法違反)、政府の機密文書を持ち出した裁判(連邦法違反)、ジョージア州の大統領選挙結果に介入した裁判(ジョージア州法違反)で、これらの裁判の日程は本号執筆時点(4月下旬)では未定である。

3 激戦州については前号参照。

4 このスローガン自体は、1980年の選挙でロナルド・レーガンが最初に使用した。

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