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海外だより

グローバルな視点で日本農業やJAを見つめるために、全中ワシントン駐在員による現地からのタイムリーな情報を発信します。

アメリカ大統領選挙 対決の構図固まる

[October/vol.160]
菅野英志(JA全中 農政部 農政課〈在ワシントン〉)

 暗殺未遂事件や共和党全国大会を経て、日本では「ほぼトラ」「確トラ」などの言葉が広がった7月下旬から約1か月、アメリカ大統領選挙をめぐる情勢は大きく様変わりした。劣勢と見られていた民主党が盛り返している。

ハリス副大統領の大統領候補指名とウォルズ副大統領候補

 7月21日のバイデン大統領の異例の撤退表明からわずか2週間程度で、民主党はハリス副大統領を大統領候補として指名する道筋を固め、急速に団結して見せた。数か月をかけて実施した予備選挙の意義はさておき、バイデン氏の撤退表明からハリス氏の指名、副大統領候補の選出、そして8月中旬に開催された民主党全国大会まで、マスメディアがハリス-民主党の動向を連日報道したことも相まって、ハリス-民主党陣営は大きなモメンタム(勢い)を築くことに成功した。政治情報サイトであるRealClearPoliticsがまとめた世論調査の動向を見ても、バイデン氏の撤退後に民主党が盛り返している様子が読み取れる。

世論調査の動向(RealClearPoliticsより)

 ハリス氏の強みとしては、先月号でも指摘した通り、ハリス氏の属性(女性、黒人、アジア系)や若さ(本号執筆時点で59歳)が挙げられ、バイデン氏とトランプ前大統領のどちらも好まない立場だった「ダブルヘイター¹」からの支持や、特に若者層からの支持の積み上げが期待される。

 他方で、現在のハリス-民主党の勢いは一時的なもので、「ハネムーン期間」と見られている。その背景としては、不法移民対策をはじめハリス氏の副大統領としての実績が乏しく、その実力が疑問視されていることや、現時点ではまだ具体的な政策を示していないことなどが挙げられる。9月10日に予定されているハリス氏とトランプ氏のテレビ討論会でのパフォーマンスを含め、ハリス-民主党陣営としては、いかに現在の勢いを継続できるかが当面のポイントとなる。

 また、ハリス氏は、副大統領候補として中西部ミネソタ州のティム・ウォルズ知事を選出した。ウォルズ氏はネブラスカ州の出身で、州兵や高校教師、アメリカンフットボールのコーチを務めた後、連邦下院議員に転身。2019年よりミネソタ州知事に就任し、現在2期目を務めている。白人男性を副大統領候補に選んだのは黒人で女性のハリス氏とのバランスを考慮したもので、中西部の白人労働者層からの支持獲得の狙いがある。ウォルズ氏の全国的な知名度は決して高くはないものの、その親しみやすく飾らない人柄で、まずまずのスタートを切った。同じく中西部出身の共和党のヴァンス副大統領候補とのテレビ討論会は10月1日に予定されており、こちらも要注目である。

1 Pew Research Centerの調査によれば、有権者の25%程度がダブルヘイターと見られている。


8月6日の選挙集会でウォルズ氏(右)を紹介するハリス副大統領
(写真はabc NEWSのHPより)

ケネディ氏の撤退

 8月23日、第3の候補として無所属で大統領選に出馬していたロバート・ケネディ・ジュニア氏が選挙戦から撤退し、トランプ氏の支持に回ることを表明した。最近のケネディ氏の支持率は5%程度と低迷しており、ケネディ氏の支持票全てがトランプ氏に流れるわけではないとはいえ、数パーセントの争いとなる激戦州²において、この判断が最終的な結果を左右する可能性はある。

 いずれにせよ、これで今年の大統領選挙はハリス氏とトランプ氏の事実上の一騎打ちの構図となった。11月5日の投開票日に向けて、選挙戦もいよいよ佳境を迎える。

2 選挙のたびに勝利政党が変わりやすい州で、スイングステートとも呼ばれる。詳しくは本年5月号の本記事を参照。


8月23日の選挙集会でトランプ前大統領への支持を表明したケネディ氏(左)
(写真はFOX NEWSのHPより)
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