文字サイズ

若者がみつめる農・食

農・食の未来を拓く高校生・大学生の研究

第5回(2021年度)全国高校生 農業アクション大賞 奨励賞受賞
高校生が、京の伝統野菜を守り未来へつなぐ
―「シードバンク」から、地域を巻き込んだ「京野菜の魅力発信」へ

~京都府立桂高校 アグリビジネス研究班~
JA全中

「全国高校生 農業アクション大賞」について
 
 JA全中は毎日新聞社と連携し、農業高校(農業系学科があるなどの関連高校を含む)の生徒たちがグループとなって取り組む「農」や「食」に関するプロジェクトや課題研究を「全国高校生 農業アクション大賞」として支援・顕彰しています。
 農家の人たちなど地域と連携して実践する3か年の計画を募集し、毎年度15グループを認定。優れた実績を残したグループには、3年目に「大賞」や「準大賞」、「奨励賞」を贈ります。

研究の背景と目的

 全国ブランドとして、すっかり定着した京の伝統野菜。ただその一方で、栽培の手間から生産農家は減少しており、代々受け継がれてきた固定種が途絶えてしまう恐れも浮上しています。
 京都府立桂高校 アグリビジネス研究班の生徒たちは、京文化と共に育まれてきた固定種である京野菜を守り受け継いでいくため、「シードバンク(種子銀行)」を目指そうと立ち上がりました。京野菜の種子を保存することを目標としてきましたが、現在では京野菜の栽培と同時に普及活動にも力を入れ、活動を行っています。
 伝統野菜の種は、農家にとって「門外不出」の宝でもあります。生徒たちは「伝統野菜を後世に残したい」という思いを伝え、農作業を手伝うことで信頼関係を築き、農家から種を譲ってもらいます。その種を使った栽培を続ける中で、「守るだけでは伝統野菜が衰退してしまう」という問題意識から、京野菜のPRと商品開発にも力を入れ始めました。
 地域の病院と連携し、京野菜の機能性成分を生かした病院食を共同開発。慢性腎臓病患者も食べられるように工夫した「かつらうりのサラダ」や「桂うりのくずとじ煮」、「賀茂なす」をピーマンと一緒にみそで煮込んだ「なべしぎ」、完熟の「鹿ヶ谷しかがたにかぼちゃ」を使用した冷製スープなどを提供しました。病院で京野菜の販売も行ったところ、機能性成分について質問されることも多くあり、地域住民との交流を通して生徒たち自身の理解もさらに深まりました。
 2021年11月には、京都高島屋で「京都タカシマヤ×桂高校フェア」を開催。1週間の開催期間中、「九条ねぎ」を使った「ねぎ巻き」や「京こかぶ」を使った「たいかぶら鍋」など、多くのコラボ商品を販売しました。さらに「九条ねぎ」に特化したキャンペーンを京都の飲食店でも展開しました。
 地域資源の循環にも着目。地元企業の「山田製油」では、ゴマ油精製の際に多量の搾りかすが排出されます。この搾りかすを肥料にして栽培を行い、生徒たちからは、山田製油社が運営する飲食店に京野菜を出荷することで、地域循環を実現しました。
 その他、武田薬品工業社とタイアップした「堀川ごぼう」の栽培実験や、阪急電鉄の駅と近隣カフェをつないだ野菜販売など、大企業との提携にも成功し、活動の幅を広げています。
 地元の小学生たちと一緒に「桂うり」や「賀茂なす」「鷹峯たかがみねとうがらし」を栽培し、地域の食育にも取り組んでいます。2023年には、生徒たちが育てた京野菜を小学校給食で提供することも実現。校内放送で京野菜の紹介をするほか、野菜の収穫までの流れを紙芝居にしたり、収穫風景を放映したりと、幅広い食育活動を続けています。
 同年、生徒たちが栽培しているレモン・すだちの収穫にも着手。規格外野菜と合わせた、京都ならではの加工品の開発にも取り組みます。
 企業連携などの活動がメディアを通して紹介され、「実際に栽培したい」と農家が名乗りを上げた例もありました。少しずつ京野菜の栽培農家が増えていますが、新規参入者を多数生み出せてはいないことを課題として捉えている生徒たち。京野菜と農家をつなぐ架け橋となるため、栽培と同時にさらなる普及活動や食育活動も継続し、消費者のニーズを作るとともに、そのニーズに応えられるようなシステム作りも進め、京野菜の新たな可能性を探ります。

京野菜のミズナを収穫する生徒たち
記事一覧ページへ戻る