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地域の元気を生み出すJA

~2025年 2度目の国際協同組合年に向けて~

中山間地域の産地を新規就農者とともに伸ばす
JA愛知東トマト部会

愛知県JA愛知東の取り組み
和泉真理 一般社団法人日本協同組合連携機構(JCA) 客員研究員

 昨年の11月、国連総会は2012年に続き、2025年を2度目の国際協同組合年にすることを宣言しました。
 JAグループは、持続可能な地域社会をつくる日本の協同組合の取り組みについて、認知を高めていく絶好の機会として捉えてまいります。
 今後、「協同組合」についての関心が高まることが想定される中、全国各地で「協同組合の力」を発揮しているJAの取り組みを紹介します。

<愛知県:JA愛知東>
 愛知県北東部にあるJA愛知東は、北は長野県、東は静岡県に接する中山間地帯である。JAの管内面積は県面積の5分の1を占めるが、その85%以上は山林であり、農地は3.8%にすぎない。中でも標高の高い津具村(現設楽町津具)で、昭和48年に愛知県唯一の夏秋トマト産地としてトマト栽培が始まった。加えて設楽町や作手村(現新城市作手)という中山間部にトマト産地が形成された。JA合併を機に、平成17年にこの3地域のトマト部会が合併して愛知東農業協同組合トマト部会が誕生。現在は地域別に3支部を置く組織体制となっている。令和5年3月末のトマト部会員数は59人であり、その6割以上を農外から参入した新規就農者が占めている。
東海道新幹線の走る平野部から30分ほど「上がってくる」と、山に囲まれた盆地に水田や畑地が広がる中にトマトのハウスが並ぶ光景に出会う。新規就農者は持ち主が高齢化している水田を借りてハウスを建て、トマトなどを生産している。

水田の中に立ち並ぶ新規就農者のハウス

1. JA愛知東で増える新規就農者

 JA愛知東管内で平成24年度から令和4年度までに新たに就農した人(定年帰農、親元就農含む)は92人いるが、そのうち60人を農外からの新規就農者が占める。新規就農者の多い作目は、トマト37人、イチゴ11人、ミニトマト8人などとなっている。新規就農者を多く受け入れているトマトやイチゴの生産者は、その他の品目の生産者と比べて著しく若い。令和4年度においても6人の農外からの就農者が新たにJA管内で経営を開始し、加えて5人が就農を目指して研修中であり、継続的に新規就農者が確保されている。
 JA愛知東は、管内で生産するほとんどの品目において生産者の高齢化・その後の離農が見込まれる中、園芸品目の中で今後販売額の維持・拡大が見込める品目を「攻めの品目」と位置付け、その品目に絞っての新規就農者の受け入れ・育成を積極的に行っている。攻めの品目とされているのは、トマト、ミニトマト、イチゴ、ホウレンソウ、菌床シイタケである。絞り込まれた品目への重点的な新規就農支援が、新規就農者の確保・定着に成功している一因だ。
 トマト部会の場合、新規就農者が増えていることは、部会員数の確保と世代交代をもたらしているだけではない。新規就農者は新しい栽培方法であるココバッグ栽培の導入と技術確立を推進してきており、それがトマト部会の平均単収の増加、ひいては販売額の拡大につながっている。このような取り組みにより、JA愛知東トマト部会は令和3年の第50回日本農業賞の集団組織の部において大賞を受賞している。

図:トマト部会員数の推移

2. トマト部会が新規就農者への支援に取り組む経緯

 中山間地域の多いJA愛知東では生産者の高齢化率もとりわけ高く、その中で今後農地をどのように活用していくかの検討を迫られていた。JA管内のトマト産地も世代交代が進まず部会員の高齢化が進む中、合併前の津具村のトマト部会(現在のトマト部会津具支部)では以前から新規就農者受け入れの取り組みが行われていたが、部会員の減少を止めるには至っていなかった。
 平成17年にトマト部会が統合されたことを機に、部会での担い手確保についての検討が始まった。JAが示した10年後の産地シミュレーションでは、地元の後継者だけでは産地が維持できないことが数値で明らかになり、部会内に衝撃を与えた。平成24年度からのJAの3か年計画策定時に組合員に対し行われた、「このまま組合員数が減れば選果場使用料が上がらざるを得ないが、どうするか」といったアンケート調査結果などから、地域外から新規就農者を呼び込む必要があるということになり、関係機関の協力を得ながら就農希望者への支援を行うことになった。
 ちょうど新たな国の新規就農支援策として青年就農給付金制度が平成24年度から導入されたところであり、トマト部会の新規就農支援の開始はそのタイミングとも一致した。
 また、管内で稲作を営むのは高齢農家が多く、こうした農家は近い将来引退した後に水田が活用されることを求めていた。一方管内の市町村は過疎化対策として移住・定住支援を進めており、住宅の提供などのサービスを導入していた。JA愛知東での新規就農支援は、トマトやイチゴなどの作目の生産者や産地の維持に加え、水田の活用、定住促進の3つが連携した形で進められてきている。

3. 新規就農者による新しい栽培方法(ココバッグ栽培)の導入と普及

 ヤシがら培地を用いた養液栽培(「ココバッグ栽培」)によるトマト栽培は、今ではJA愛知東トマト部会の生産面積の3割以上を占めている。
 ココバッグ栽培は、トマトの新規就農者が土壌伝染性病害対策として平成25年に導入した。さらに、平成26年に研修を開始した3人の就農予定者が、水田にトマト栽培施設を設置するときに頻繁に発生する湿害対策として、当初予定の土耕の代わりにココバッグ栽培で就農することを検討し、最初に導入した新規就農者と連携しつつ平成27年に導入した。
 当時、夏秋トマトでのココバッグ栽培における肥培管理技術などは確立しておらず手探り状態だったが、普及支援センターなどとも協力しつつ生育と給液管理を行い、その結果3人は初年度から部会平均を大幅に上回る単収を確保し、地域内に新規参入者を中心にココバッグ栽培が広まるきっかけとなった。
 その後もココバッグ栽培に取り組む農業者間での情報交換会を行い、令和元年度からは「ヤシがら培地養液栽培研究会」を設置して、ココバッグ栽培技術を導入する部会員の平均単収のさらなる向上をもたらしている。
 ココバッグ栽培はさまざまな点で新規参入者にメリットが大きい。上述の病害や水田利用での湿害対策に加えて、土耕に必要なトラクターが不要であり、栽培管理技術が定着しつつある中で高い収量を安定して確保でき、資材費はかかるが高収益を見込むことができる。

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