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地域の元気を生み出すJA

〜2025年 2度目の国際協同組合年に向けて〜

JAとJA女性部の支援によるフレミズグループ設立へのプロセスと活動の新展開

~静岡県JAみっかびの取り組みから~
小川理恵 一般社団法人日本協同組合連携機構(JCA) 基礎研究部 主席研究員

 昨年の11月、国連総会は2012年に続き、2025年を2度目の国際協同組合年にすることを宣言しました。
 JAグループは、持続可能な地域社会をつくる日本の協同組合の取り組みについて、認知を高めていく絶好の機会として捉えてまいります。
 今後、「協同組合」についての関心が高まることが想定される中、全国各地で「協同組合の力」を発揮しているJAの取り組みを紹介します。

はじめに

 静岡県の西部、浜名湖の北岸に位置するJAみっかびは、温暖な気候を生かした「三ヶ日みかん」の一大生産地として知られている。また、ブランド牛「みっかび牛」を筆頭に、豚、ブロイラーなどの畜産業も盛んで、畜産の餌に三ヶ日みかんの残渣ざんさを混ぜたり、堆肥を三ヶ日みかんの畑に戻すなど、循環型の農業にも取り組んでいる。管内の浜松市浜名区三ヶ日町は世帯数が約5,000であり、その半数以上が組合員世帯という地域に密着したJAである。
 一方で、全国の他の地域と同様、組合員が高齢化し世代交代が進みつつある。特に、世帯数の半数以上が組合員世帯である当地域においては、次の時代を担う若い世代とのつながりづくりは、JAの将来を考える上で欠かせない視点である。
 そこでJAみっかびでは、農業者の約6割を女性が占める現状に鑑みれば、女性が活力の源泉であること、さらに農業を守りJAを発展させるには、農家組合員だけでなく地域住民と消費者の応援が不可欠であるとの認識のもと、それらが交錯する「若い世代の女性」を対象とした、JAとの関係性の構築に乗り出し、JA運動に参加参画する若い女性たちの「視野を広げる場・仲間づくりの場」として「フレミズカレッジ」を2014年度(2015年1月)に創設した。

1. 学びからグループ設立、そして活動へ~丁寧な展開プロセス

(1)やわらかな声掛けの場「フレッシュミズのつどい」
 フレミズカレッジは、JAの広報誌『くみあいだより』やJA女性部からの声掛けなどのほか、若い女性をターゲットとしたイベント「フレッシュミズのつどい」を毎年開催して受講生を募集している。フレッシュミズのつどいは、プロのメイクアップアーティストによる流行のメイク講習会や、JA女性部メンバーが講師となった料理体験、摘果ミカンを材料に用いた手作りゼリーの試食など、若い女性に喜ばれるお楽しみ企画と、フレミズカレッジやJA女性部の紹介とを組み合わせたプログラムとしている。参加者にまずはイベントを楽しんでもらうことを主眼に、興味を示した女性に、JA女性部への加入やフレミズカレッジの受講を勧めている。こうした強制ではない「やわらかな声掛け」が功を奏し、フレッシュミズのつどいを経由してフレミズカレッジに応募してくるケースが多い。フレッシュミズのつどいは、2014年7月以降毎年開催しており、毎回10人から15人の女性が参加している。

2024年7月開催予定のフレッシュミズのつどいの案内。
今回のメイン企画は「うどん作り」

(2)仲間づくりが進む仕掛けを取り入れた「フレミズカレッジ」
 フレミズカレッジは、管内に暮らすおおむね43歳までの女性を対象とした女性大学である。2年1期で、2024年6月現在、第5期(2年目)を開催中である。毎期10~20人の女性が参集しており、第5期の受講生は10人となっている。農家・非農家の割合は期によって異なるが、だいたい半々の割合である。
 女性同士の仲間づくりを第一の目的としているため、カリキュラムのほとんどが料理教室やアロマテラピーなどの趣味の講座だ。しかし、料理の材料に三ヶ日みかんやみっかび牛など、地元の農畜産物を積極的に使用するほか、JAが運営するミカンの集出荷場の視察も必ず組み入れるなど、さりげなくJAや農業が身近に感じられる工夫を施しており、農家だけでなく非農家の受講者からも好評である。初回に会費として1,000円を徴収するが、受講者のそれ以外の負担は実費のみだ。例えば、2024年6月のパン作り講座の費用は300円で、何かと出費のかさむ子育て世代にとってはうれしい金額である。
 フレミズカレッジでは、女性の仲間づくり促進のため、JA事務局がさまざまな仕掛けを行っていることも特徴的である。
 まず1つ目は、料理教室などで、いつも同じ人で固まることのないように、事務局が事前にグループ分けをしていることである。受講生は、2年間の受講期間にほぼ全員とチームを組むこととなる。この仕組みにより、女性たちは、狭い地域を超えた人間関係を結び、共同作業を通じて「全員が同じ講座の仲間」という意識を高めている。1人で応募してきた受講生にもうれしい配慮であり、活動に継続して参加する上でのモチベーションにもつながっている。筆者が取材に訪れた際にも、その日初めて組んだ女性同士が、パン生地をこねながら「子育て相談会」と称したおしゃべりに花を咲かせていた。 

第5期フレミズカレッジの皆さん。前列右から2番目はパン作りの先生

あっという間にお友達に

 2つ目が、2期連続の受講を禁止していることである。女性大学を運営するJAの中には、人が集まらないことを危惧して、同じメンバーが継続して何度でも受講することを認めているケースも少なくないが、JAみっかびにおいては、2期連続での受講の禁止を徹底している。なぜなら、フレミズカレッジの次のステップとして、新たなフレミズグループの立ち上げを目指しているからである。

(3)新たな活動の場として「フレミズグループ」の立ち上げ
 1期の2年目後半に入ったタイミングで、2年間の学び合いの中で自然と生まれてきたリーダー格の女性を中心に、新たなフレミズグループの立ち上げを事務局から提案する。2年間の受講を通して高まった仲間意識と、2期連続では受講できないというルールから、新たにフレミズグループを立ち上げることが必然となる状況をJAがつくっている。提案を受けた受講生たちは「この仲間で何かをしたい。それができるならグループを立ち上げよう」と積極的にグループ化を受け入れている。
 2024年度現在、第1期生と第2期生が合同で「みかんちゃん」、第3期生が「サンさんオレンジ」、第4期生が「マンダリン」というフレミズグループをそれぞれ立ち上げ、積極的に活動している。現在実施中の第5期生でも、新たにフレミズグループを立ち上げることとして準備を始めている。

2. フレミズグループ「みかんちゃん」が取り組む食農教育と、さらなる活動の横展開

 3つのフレミズグループの活動は、その成り立ちプロセスにおいてすでに強い仲間意識が醸成されているため、自主性が高い。
 中でも第1期生・第2期生による「みかんちゃん」は、近隣の小学校において途絶えてしまっていた食農教育を再開させるなど、活発な活動を展開している。食農教育の再開は、みかんちゃんの代表(当時)である樋田奈津子さんが、自らの子どもが通う小学校で長く実施されてきたサツマイモの農業体験が、人手不足により中断していることを知り、小学校に出向いて「みかんちゃんがお手伝いするので、再開しませんか?」と提案したことがきっかけで、実現したことである。
 みかんちゃんは、サツマイモの農業体験だけでなく、新たに大豆の栽培とみそづくり、落花生の栽培など、食農教育の幅を広げつつあり、児童はもとより、教師や保護者、また大豆等を栽培する組合員からも喜ばれている。そうしたことが、地域住民のJAへの親近感にも結び付いている。
 フレミズ活動については、JA事務局が主導するのではなく、メンバーがやりたいと思うことをメンバー自らが企画し、JA事務局は可能な範囲で自由な活動を促し、必要な経費を可能な範囲で支援している。その一方で、JAサイドからは、例えば農協祭等における加工品の販売をフレミズグループにお願いするなど、フレミズグループとJAは二人三脚の関係性を構築している。こうした関係性が実現しているのは、若年層の女性の仲間づくりにJAが積極的に関与し、JAが要所要所でさまざまな仕掛けや決まり事を徹底したことで、フレミズメンバーの中で仲間意識と結集力が高まったと同時に、フレミズメンバーとJA事務局との信頼関係も育まれたためといえる。
 みかんちゃんによる食農教育は、2024年で6年目を迎えた。これまでは、みかんちゃんのメンバーのみで取り組んでいたが、みかんちゃんのメンバーの子どもたちが小学校を卒業する年齢となったこともあり、活動の継続性を見越して、次の世代である、第3期生の「サン3オレンジ」、第4期生の「マンダリン」のメンバーにも少しずつ食農教育への参加をお願いしている。また、これまで別々に活動してきた3つのグループがそれぞれどのようなことに取り組んでいるのかを知るために「情報交換会」も近々開催することとなった。こうしたグループ間連携も、JAが無理に促したわけではなく、フレミズメンバー自らの提案により実現しつつあることは、特筆すべきであろう。また、みかんちゃんにおいては、限られたメンバーに負担が偏ることのないよう、代表の輪番制も導入するなど、みんなが活動を「自分ごと」として受け止められるような仕組みも順次取り入れている。こうしたところにも、JAみっかびフレミズ活動の自主性と新規性の高さを見ることができる。

フレミズグループが展開する小学校での食農教育

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