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3. 若い世代の仲間づくりを応援するJA女性部の先輩たち

(1)託児ボランティア「はっぴいまむ」
 フレミズ世代の仲間づくりにおいて、JA女性部の果たす役割も大きい。フレミズカレッジの受講生には子育て真っただ中の若いお母さんが多い。そこで、講座に集中してもらいたい、仲間づくりを後押ししたい、という思いから、JA女性部が託児ボランティア「はっぴいまむ」を立ち上げた。
 JA女性部メンバーは、当初は軽い気持ちで託児をスタートさせた。しかしメンバーの中に保育士の資格を持つ女性がおり、その女性から「子どもを預かることは命を預かることで、簡単に考えてはいけない」との助言を受け、そうした認識をJA女性部メンバーで共有する中から、若いお母さんが安心して子どもを預けることのできる本格的な託児ボランティアを目指すという方向性が打ち出された。
 そこで、浜松市の託児支援センターから講師を招き、専門知識を習得できる託児講座を女性部で実施した。託児講座では、子どもを預かるところからお母さんに返すところまで、プロセスを追って徹底して学ぶ。講座を企画した、当時JA女性部長で、はっぴいまむ代表の渡邊とも江さんは「自分には育児の経験があるから大丈夫とみんなが思っていましたが、ひとさまのお子さんを預かるのは自分の子育てとは違います。専門講座により託児への意識が高まり、その結果、質の高い託児ボランティアを提供することができるようになったと思います」と話す。この専門講座を修了した者のみが、はっぴいまむに参加することができる。新たに加入希望があった場合は、その都度専門講座を受講する仕組みとなっている。
 はっぴいまむのメンバーは現在12人である。メンバーの中には、4人の保育士有資格者も含まれている。託児の対象は1~3歳の未就園の子どもで、フレミズカレッジが開催されるJA調理室等の会場とは別の階にある、和室の会議室を託児ルームとして託児を行う。あえて別の階としているのは、子どもの泣き声がなるべく母親に聞こえないようにという配慮からだ。託児を希望する受講者がいる場合、子どもの数+1人のボランティアメンバーが必ず現場に入り、不測の事態に備えている。また、できる限り、元保育士のメンバーが1人入るようにシフトを組んでいる。
 託児ルームの玩具には手作りのものも多い。購入すれば万単位になるであろう、見事なキッチンセットもJA女性部員のお手製で、取材時には、お子さんが紙の包丁で、フェルトでできたニンジンやダイコンを切っては筆者に手渡してくれて、心が和んだ。

女性部員お手製のキッチンセットと椅子。本格的な出来栄えで子どもたちに大人気

 フレミズカレッジの講座が終わり、子どもを迎えにきたお母さんには、託児中のお子さんの様子を詳しく報告する。また、はっぴいまむ内で連絡ノートを作り、メンバー同士で子どもの状況や特徴などの情報を共有することも徹底している。
 はっぴいまむはその専門性の高さから、フレミズ世代から絶大な評価を得ている。第5期生の藤井碧さんは、「託児サービスがフレミズカレッジ受講の決め手になりました。昨年まで第1子がお世話になっていましたが、初回には泣いていたのに、そのうち『おばちゃんと遊んでくるよ』と自分から進んで女性部の皆さんのところに行くようになりました。来年は第2子をお願いする予定です」と、うれしそうに話してくれた。はっぴいまむは、フレミズカレッジのほか、前述のフレッシュミズのつどいや農協祭などにおいても託児ボランティアを展開しており、母親たちの仲間づくりを支援している。

「はっぴいまむ」代表の渡邊とも江さん(右)とメンバーの森田明美さん(左)。
森田さんは保育士の資格を持つ

(2)農協祭における育児部屋の提案
 JA女性部メンバーは、専門講座で託児を本格的に学ぶ中で、新たな気付きを得るに至った。それは、農協祭等のイベントにおいて、子連れの参加者に対する配慮に欠けていたのではないか、ということである。赤ちゃんを抱っこしてまで顔を出してくれた若いお母さんが、おむつ替えや授乳の時間になるといったん家に帰ってしまい、そのまま戻ってこないケースが多く、それではせっかくの企画を楽しんでもらうことができない。
 そこで、JA女性部から、イベントの際にJA内の会議室の一つを、育児部屋として開放することをJAに提案し実現した。このアイデアは大変好評で、おむつ替えや授乳だけでなく、ぐずった子どもをあやしたり、赤ちゃんを抱っこしていて疲れたりしたときのひと休みスペースとして、多くの母親たちが利用する姿が見られるようになった。これにより、「まだ楽しみたいのに途中で帰る」ということが半減し、そうした女性たちが、フレミズカレッジの次の受講生になることも見受けられるようになった。
 また、育児部屋の件をきっかけに、JA建物内のトイレにおむつ交換用のベッドも設置されることとなった。現在は1台だが、2台目の設置に向けてJA内で協議も始まっている。農協祭で配布される会場マップにも、育児部屋やおむつベッドの場所が分かりやすく示されている。
 こうしたJA女性部によるフレミズ世代の仲間づくりへの積極的な関わりが、フレミズ世代の仲間づくりを促進するとともに、フレミズ世代からのJA女性部への信頼感となって、両者間の良好な関係性を構築している。JAみっかびにおいては、フレミズグループはJA女性部内に位置付けられるため、フレミズグループに加入すると同時に、JA女性部の各支部のメンバーとなるが、違和感なく自然に受け入れられている。

おわりに

 このように、JAみっかびでは、JAとJA女性部が積極的に若い女性たちの仲間づくりを支援することで、新たなフレミズグループが誕生し、自主的な活動を展開するに至っている。さらにそれだけでなく、グループ間連携のきざしも生まれつつある。そうした中で、JAとJA女性部、フレミズ世代との信頼関係が構築されているのである。
 JAみっかびでは、今年度JA女性部規約を改訂した。これまで、JA女性部員の資格は、組合員もしくはその家族に限定されていたため、組合員家庭ではない女性がフレミズグループに加入するには、自らが新たに准組合員等になる必要があった。しかし、JA女性部員の非農家率が増える中、フレミズ加入へのハードルを高めてしまうことにもなりかねない。そこで、まずはフレミズメンバーになってもらい、その後あらためて准組合員等への加入推進を行うこととして方向性を定めた。JA女性部の事務局を務める、生活経済部 組合員生活課の若松沙矢佳さんは「時代の流れや地域の状況を踏まえつつ、規約や活動内容を柔軟に変えながら仲間づくりを進めていきたいです」と話す。
 筆者は昨年の秋に、フレミズ活動の取材のためJAみっかびを訪れていたが、それからわずか半年余りの間で、グループ間連携や規約の変更という新たなステップへと移行しつつあることに驚かされた。今後もわくわくしながら、展開を注視していきたい。

小川理恵 おがわ・りえ

1997年にJCAの前身である社団法人地域社会計画センターに入会。総務課長、企画調整室長を経て研究職に職種転換、現在に至る。研究分野は地域づくりと女性活動。著書に『魅力ある地域を興す女性たち』(農文協、2014年)、『JA女性組織の未来 躍動へのグランドデザイン』(共著、家の光協会、2021年)他。

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