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3. 青壮年部が主役となり取り組む「TEA HERO選手権」

(1)青壮年部による選手権の企画と実行

①リーフ茶(茶葉から淹れる緑茶)から茶飲料へ変わる消費動向
 総務省家計調査によると1世帯当たりのお茶の年間支出金額は、ペットボトルなど手軽に飲める茶飲料の増加により、平成12年の1万478円から令和4年は1万1,264円へ7.4%増加している。一方、若い世代のリーフ茶離れは進み、1世帯当たりの年間消費量は平成12年の1,213gから令和4年は701gへと42.2%減少している。消費動向の変化により茶葉の生産は、安価な茶飲料向けは比較的堅調であるが、主にリーフ茶向けとなる一番茶の生産量は減少し、茶価も低下傾向になっている。

②選手権の立ち上げ
 このように、消費動向の変化に加え高齢化・後継者不足など茶業界を取り巻く厳しい環境を背景に、茶農家でもある青壮年部はお茶ファンの育成を目的に選手権を企画している。
 選手権の立ち上げ当時について、青壮年部の部員は「青壮年部ではさまざまな活動を行っていますが、メインとしているのは地域の基幹作物であるお茶の魅力を伝えること。子どもたちが楽しく、心に残る活動を模索していた頃、部員が技術力を高める活動として行っている『闘茶会』に着目しました。『闘茶会』は茶葉の形、色、香り、味などから産地や品種を当てる競技で、古くから日本人と歩んできた『遊び』です。ゲーム性が高く、五感を研ぎ澄ませてお茶に集中することが求められます。これを子どもたちに体験してもらえば楽しくお茶について学ぶことができるのでは、と思いました」と話す。

③小学校への働きかけと運営
 しかし、小学校の過密なカリキュラムに組み込むことは簡単なことではない。さらに、全小学校で実施するとなると、小学校のみならず教育委員会との調整も必要になる。青壮年部はどのように具体化していったのだろうか。
 まず青壮年部が平成20年に取り組んだのは、ある小学校の1クラスで試験的に実施することであった。部員の家族が通う小学校に部員が自ら出向き、選手権の実施提案を行っている。部員の熱意と、学習プログラムとして過不足がない企画であったことが決め手となった。
 開催当日は青壮年部の部員がお茶の先生として教壇に立ち、「闘茶会」を運営している。このときの様子について、青壮年部の部員は「最初は子どもたちも、私たちも緊張気味でした。しかし真剣にお茶を見る、飲む、子どもたちの姿。そして、解答を発表すると沸き上がる歓声と笑顔を見聞きしたことで自信を深め、翌年から牧之原市内の全小学校で実施することを決定しました」と話す。
 試験的な実施で自信を深めた青壮年部は、翌21年から全小学校で実施するために動き出している。保護者でもある青壮年部の部員が中心となり、JAの支援を受けつつ市内の各小学校と教育委員会や市役所と折衝せっしょうするため、自ら出向き熱心に働きかけている。その結果、全小学校で選手権の開催は実現した。また、牧之原市茶業振興協議会は共催、牧之原市教育委員会と学校組合教育委員会は後援するなど、市を挙げてのイベントとなっている。

(2)JAの役割と支援

 選手権の主催者は青壮年部とJAであるが、司会進行をはじめとする運営は青壮年部の部員が行い、JA職員は裏方に徹している。
 JAの役割について、営農経済部 組合員相談課 藤田部長兼課長は「JAの役割は青壮年部の自主的な取り組みを尊重し、彼らがやりたいことを支援することです。主役は青壮年部で、JAは青壮年部の事務局として裏方に徹しています」と話す。
 選手権を小学校で実施するには、子どもたちが「闘茶会」で服用するお茶の準備など、学校の規模に応じて10~30人のスタッフが必要になる。茶業で忙しい青壮年部の部員だけではまかなえない。このため、JAは営農経済センターの職員をはじめ、1支店1協同活動の中で支店管内の小学校で実施される選手権を裏方として支えている。また、闘茶に必要となる湯飲み、急須、ポットなどの備品の貸し出しと、市からの助成を一部受け、茶葉や賞品の手当ても行っている。このように、JAは地域の子どもたちへ農業の役割や魅力、食の大切さを伝えるため、食農教育活動や1支店1協同活動を通じて、青壮年部をしっかりと支援している。

4. 「TEA HERO選手権」で広がるお茶ファン

 平成21年から牧之原市内の全小学校で開始した選手権には、これまでに5,000人を超える子どもたちが参加している。
 この茶育により子どもたちは味の異なる5種類の地元産リーフ茶に触れることができたのである。味覚は10歳(5年生は4月時点で10歳)頃までの味の記憶がその後の味覚の基礎になるといわれているが、リーフ茶を味わう機会が少ない子どもたち(注2)にとって選手権は、そのおいしさを楽しい思い出とともに五感の記憶に残す貴重な体験の場となっている。
 選手権に参加した子どもたちの声を紹介すると、「お茶の種類を考えながら飲むようになり、牧之原市の特産品である緑茶への興味、関心がわきました。これからもお茶を飲んでいきたいです」との声が上がる。
 選手権がスタートした当時の小学5年生はすでに成人し社会人となっている。このうちの一人である第1回優勝者の増井氏は、JA職員となり青壮年部事務局としてお茶の魅力を子どもたちに伝える立場となった(現在は金融担当)。同氏も選手権について、「お茶の種類や知識を多く知ることができ、お茶を飲むきっかけとなりました。とても楽しい思い出の一つです」とコメントしているのが印象的である。
 また、「選手権を体験した生徒が通う地域の高校では、JAハイナンのブランド茶・静岡牧之原茶『望』を使ったお菓子を作り、文化祭と農協祭で販売するなど、自ら進んでお茶の魅力を伝える動きが出ている」などが報告されている。
 以上は一例であるが、青壮年部の茶育の活動により、さまざまな形で子どもたちにお茶の魅力が伝わり、広がっていることが分かる。選手権は、地道ではあるが将来の消費者につながるお茶ファンを着実に育成している。
 加えて選手権がイベント参加型ではなく授業の一環として実施されることの意味は大きい。市長や教育長をはじめ行政と学校が一体となって開催することは、子どもたちの家族や地域において選手権の認知と理解を深め、学校や地域で選手権が波及する効果を高めている。

(注2)「平成30年度健康と食に関するアンケート調査」(牧之原市)によると毎日急須で緑茶を淹れて飲んでいる小学生の割合は15.1%である。

5. おわりに

 青壮年部の部員数は茶業の厳しさを反映し、現在は43名と選手権立ち上げ当時から逓減ていげんしている。このため選手権の運営にあたってはJA職員の支援する割合が増えてはいる。だが、主役はこれまでどおり青壮年部である。自ら企画した選手権だからこそ部員は主体的かつ能動的に行動し、地域を巻き込むことに成功している。また、青壮年部の活動は選手権をはじめ農業体験、牧之原茶のPR活動「牧之原男子カフェ」の出展や農業経営に直結する活動(複合経営化など)に広げるなど、青壮年部の部員のモチベーションは変わらず高い。前出の藤田部長は「青壮年部に寄り添い、対話を続けることで、主役である青壮年部がやりたい活動をつかみともに楽しく活動する」ことの重要性を説く。青壮年部の自主性を尊重するJAの姿勢が青壮年部の活動の活性化につながっていることに触れておきたい。
 さて、茶育として順調に回数を重ねてきた選手権であったが、令和2年のコロナ禍を受け、選手権から非接触で行える授業(地元食材レシピコンテストなど)に変更した小学校もある。このため、現在の選手権は開催を希望する小学校に対して実施することになっている。
 コロナ禍に水を差された形となった選手権ではあるが、本年1月13日に4年ぶりの「第12回TEA HERO選手権チャンピオンシップ」を牧之原市相良史料館で開催している。このチャンピオンシップには市内の3小学校から、予選会を勝ち抜いたクラス代表の5年生、25人が出場している。前出の藤田部長は「会場には以前と変わらぬ子どもたちの歓声と笑顔があふれていました」と話す。青壮年部はこの結果を受け、4月の青壮年部通常総会において、令和6年「第13回TEA HERO選手権」の開催を決定し、準備を開始している。
 折しも農林水産省は茶の消費量が長期的に減少する中、令和5年1月から子どもの頃から茶に親しむ習慣を育むため、学校教育の場での茶を活用した食育(茶育)「茶業関係者×農林水産省『茶育』プロジェクト」を開始した。
 茶育の必要性の機運はこれまで以上に高まっている。
 健康志向や日本食への関心の高まりを追い風に、選手権を通して、茶どころ「牧之原市」の多くの子どもたちが、お茶のおいしさや文化を学び、お茶ファンに育つことを期待したい。

小林聖平 こばやし・しょうへい

1984年に全国共済農業協同組合連合会入会。
2022年に全国共済農業協同組合連合会から一般社団法人日本協同組合連携機構に出向し、現職。

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